セネカ『倫理書簡集』2.2を読む:読書のコツ
[2] (1) Illud autem vidē, nē ista lectiō auctōrum multōrum et omnis generis volūminum habeat aliquid vagum et instabile. (2) Certīs ingeniīs immorārī et innūtrīrī oportet, sī velīs aliquid trahere quod in animō fidēliter sedeat. (3) Nusquam est quī ubīque est. (4) Vītam in peregrīnātiōne exigentibus hoc ēvenit, ut multa hospitia habeant, nullās amīcitiās; (5) idem accidat necesse est iīs quī nullīus sē ingeniō familiāriter applicant sed omnia cursim et properantēs transmittunt.
(1) Illud autem vidē, nē ista lectiō auctōrum multōrum et omnis generis volūminum habeat aliquid vagum et instabile.
Illud: 指示代名詞ille,illa,illud(あれ、あの)の中性・単数・対格。vidēの目的語。illudはnē以下の命令文の内容を先取りしている。
autem: 一方、だが
vidē: videō,-ēre(見る、気をつける)の命令方・能動態・現在、2人称単数。「あれを(Illud)注意せよ(vidē)」。この文では「次のことに(Illud)注意せよ(vidē)」と解する。
nē: 接続法を伴い禁止の命令を表す。「~しないように」。
ista: 指示代名詞iste,ista,istud(<二人称にかかわる>それ、その)の女性・単数・主格。lectiōにかかる。
lectiō: lectiō,-ōnis f.(読書)の単数・主格。「(あなたのしている)その(ista)読書が(lectiō)」。
auctōrum: auctor,-ōris c.(作者)の複数・属格(「目的語的属格」)。この文では男性名詞として用いられている。lectiōにかかる。「作者たちの(auctōrum)読書が(lectiō)」とは「作者たち(の書いたもの)を読むこと」を意味する。これを「主語的属格」と取ると、「作者たちが(行う)読書」となり、文意にそぐわない。
multōrum: 第1・第2変化形容詞multus,-a,-um(多くの)の男性・複数・属格。auctōrumにかかる。
et: 「そして」。auctōrumとvolūminumをつなぐ。
omnis: 第3変化形容詞omnis,-e(すべての)の中性・単数・属格。generisにかかる。
generis: genus,generis n.(種類)の単数・属格。volūminumにかかる。
volūminum: volūmen,-minis n.(書物)の複数・属格(「目的語的属格」)。lectiōにかかる。「あらゆる(omnis)種類の(generis)書物の(volūminum)読書が(lectiō)」。「書物の(volūminum)読書が(lectiō)」とは「書物を読むこと」を意味する。
habeat: habeō,-ēre(持つ)の接続法・能動態・現在、3人称単数。nē…habeatで「持たぬように」。
aliquid: 不定代名詞aliquis,aliquid(誰か、何か)の中性・単数・対格。habeatの目的語。
vagum: 第1・第2変化形容詞vagus,-a,-um(気まぐれな)の中性・単数・対格。aliquidにかかる。
et: 「そして」。vagumとinstabileをつなぐ。
instabile: 第3変化形容詞instābilis,-e(不安定な)の中性・単数・対格。aliquidにかかる。
<逐語訳>
だが(autem)次のことに(Illud)気をつけよ(vidē)、多くの(multōrum)作家たちの(auctōrum)、そして、すべての(omnis)種類の(generis)書物の(volūminum)君のその(ista)読書が(lectiō)、気まぐれな(vagum)そして(et)不安定な(instabile)何かを(aliquid)持た(habeat)ないように(nē)。
(2) Certīs ingeniīs immorārī et innūtrīrī oportet, sī velīs aliquid trahere quod in animō fidēliter sedeat.
Certīs: 第1・第2変化形容詞certus,-a,-um(確かな)の中性・複数・奪格。ingeniīsにかかる。
ingeniīs: ingenium,-ī n.(才能)の複数・奪格(「場所の奪格」)。「確かな(Certīs)才能において(ingeniīs)」とは「確かな才能の作家の作品において」を意味する。immorārīとinnūtrīrīにかかる。
immorārī: 形式受動態動詞immoror,-ārī(とどまる)の不定法・現在。oportetの補語。
et: 「そして」。immorārīとinnūtrīrīをつなぐ。
innūtrīrī: innūtriō,-īre(育てる)の不定法・受動態・現在。不定法の意味上の主語、すなわち「育てられる」主語が省かれているが、velīs(君が望む)から、2人称単数の人称代名詞、対格(tē)を補って理解するとよい。「君は~において(自分が(tē))とどまること(immorārī)と育てられることが(innūtrīrī)必要である(oportet)」。
oportet: 非人称動詞oportetの直説法・能動態・現在、3人称単数。不定法あるいは接続法とともに「~しなければならない、~が必要である」を意味する。この文ではimmorārīとinnūtrīrīを補語にとる。「才能において(ingeniīs)とどまること(immorārī)と(et)(自分が)育てられることが(innūtrīrī)必要である(oportet)」。
sī: 「もしも」。接続法・現在を伴い、「観念的条件文」を導く。
velīs: 不規則動詞volō,velle(<不定法>を望む)の接続法・能動態・現在、2人称単数。
aliquid: 不定代名詞aliquis,aliquid(誰か、何か)の中性・単数・対格。
trahere: trahō,-ere(引き出す)の不定法・能動態・現在。aliquidを目的語に取る。velīsの補語。「もしも(sī)何かを(aliquid)引き出すことを(trahere)君が望む(velīs)なら」。
quod: 関係代名詞quī,quae,quodの中性・単数・主格。先行詞はaliquid、動詞はsedeat。「傾向の関係代名詞」。教科書(「しっかり学ぶ初級ラテン語」)p.278以下に形容詞節での用法の説明があり、p.279のロ)に「傾向・結果を表す関係文」という項目が見つかる。直説法の場合、「~するところの」と訳すのに対し、接続法の場合、「~するような(そんな傾向をもつ)ところの」というニュアンスを帯びる。
in: 「<奪格>において」。animōとともに「心(animō)において(in)」。
animō: animus,-ī m.(心)の単数・奪格。
fidēliter: 確実に、しっかりと
sedeat: sedeō,-ēre(とどまる)の接続法・能動態・現在、3人称単数。
<逐語訳>
確かな(Certīs)才能において(ingeniīs)とどまること(immorārī)と(et)育てられることが(innūtrīnī)必要である(oportet)、もしも(sī)心(animō)に(in)しっかりと(fidēliter)とどまる(sedeat)ような(quod)何かを(aliquid)引き出すことを(trahere)君が望む(velīs)なら。
(3) Nusquam est quī ubīque est.
Nusquam: どこにも~ない
est: 不規則動詞sum,esse(ある、いる)の直説法・現在、3人称単数。Nusquam estで「<主語>はどこにも(Nusquam)い(est)ない」。
quī: 関係代名詞quī,quae,quodの男性・単数・主格。先行詞は省かれている。「~ところの者は」と訳す。
ubīque: どこにでも
est: 不規則動詞sum,esse(ある、いる)の直説法・現在、3人称単数。ubīque estで「どこにでも(ubīque)いる(est)」。
<逐語訳>
どこにでも(ubīque)いる(est)ところの者は(quī)どこにも(Nusquam)い(est)ない。
(4) Vītam in peregrīnātiōne exigentibus hoc ēvenit, ut multa hospitia habeant, nullās amīcitiās;
Vītam: vīta,-ae f.(生活)の単数・対格。exigentibusの目的語。
in: <奪格>において
peregrīnātiōne: peregrīnātiō,-ōnis f.(外国旅行、外国滞在)の単数・奪格。
exigentibus: exigō,-ere(過ごす)の現在分詞、男性・複数・与格(「利害関係の与格」)。名詞的に用いられ、「過ごす人々にとって」と訳す。Vītamを目的語に取る。
hoc: 指示代名詞hic,haec,hoc(これ、この)の中性・単数・主格。ut以下の内容を先取りしている。「このことが(hoc)生じる(ēvenit)、すなわち~ということが(ut)」。
ēvenit: ēveniō,-īre(生じる)の直説法・能動態・現在、3人称単数。
ut: 接続法を含む名詞節を導く。「~ということが」。
multa: 第1・第2変化形容詞multus,-a,-um(多くの)の中性・複数・対格。hospitiaにかかる。
hospitia: hospitium,-ī n.(歓迎)の複数・対格。habeantの一つ目の目的語。
habeant: habeō,-ēre(持つ)の接続法・能動態・現在、3人称複数。hospitiaとamīcitiāsを目的語とする。hospitia habeantの直訳は「彼らは歓迎を持つ」だが、「彼らは歓迎を受ける」と意訳可能。amīcitiās habeantの直訳は「彼らは友情を持つ」だが、「彼らは友情を
nullās: 代名詞的形容詞nullus,-a,-um(いかなる~も~ない)の女性・複数・対格。英語のnoに相当。amīcitiāsにかかる。
amīcitiās: amīcitia,-ae f.(友情)の複数・対格。
<逐語訳>
外国滞在(peregrīnātiōne)において(in)生活を(Vītam)過ごす人々に(exigentibus)このことが(hoc)起きる(ēvenit)、すなわち、多くの(multa)歓迎を(hospitia)受ける(habeant)ことが(ut)、いかなる(nullās)友情も(amīcitiās)受けないことが。
(5) idem accidat necesse est iīs quī nullīus sē ingeniō familiāriter applicant sed omnia cursim et properantēs transmittunt.
idem: 指示代名詞īdem,eadm,idem(同じ)の中性・単数・主格。「同じことが」。
accidat: accidō,-ere(起こる)の接続法・能動態・現在、3人称単数。
necesse: 「必然の」を意味する不変化形容詞、中性・単数・主格。necesse est + <接続法>で「<接続法>が必然である」。この文の<接続法>はaccidat。
est: 不規則動詞sum,esse(である)の直説法・現在、3人称単数。
iīs: 指示代名詞is,ea,id(それ、その)の男性・複数・与格。iīsは名詞的に用いられ、「quī以下の人たちに」を意味する。
quī: 関係代名詞quī,quae,quodの男性・複数・主格。従属文の動詞はapplicantとtransmittunt。
nullīus: 英語のnobodyに相当するnēmō(誰も~ない)の単数・属格(nullīusはnullusの変化から補った形)。ingeniōにかかる。
sē: 3人称の再帰代名詞、男性・複数・対格。「自分たちを」。
ingeniō: ingenium,-ī n.(才能)の単数・与格。「誰の(nullīus)才能にも(ingeniō)~しない」。
familiāriter: 親しく
applicant: applicō,-āre(<与格>に近づける)の直説法・能動態・現在、3人称複数。
sed: 「だが」。否定文に続いて「むしろ」。
omnia: 第3変化形容詞omnis,-e(すべての)の中性・複数・対格。名詞的に用いられ、「すべてを」。あるいはingeniaを補い。「すべての(omnia)才能を(ingenia)」。
cursim: 走って、すばやく、急いで
et: 「そして」。cursimとproperantēsをつなぐ。後者は副詞的に用いられているため、cursimと並列的に用いられる。
properantēs: properō,-āre(急ぐ)の現在分詞、男性・複数・主格。述語的に用いられ、「急ぎながら」と訳す。
transmittunt: transmittō,-ere(通過する)の直説法・能動態・現在、3人称複数。omniaを目的語に取る。
<逐語訳>
同じことが(idem)次の者たちに(iīs)起こる(accidat)のが必然である(necesse est)、すなわち、いかなる者の(nullīus)才能にも(ingeniō)自分たちを(sē)親しく(familiāriter)結びつける(applicant)ことなく、むしろ(sed)すべてを(omnia)走って(cursim)そして(et)急ぎながら(properantēs)通過する(transmittunt)ところの(quī)者たちには。
<翻訳>
だが、気をつけたまえ。君のようにたくさんの作家やあらゆる分野の書物を読んでいると、あてどなく不安定な面も生じかねないからね。これと見定めた才能豊かな作家に時間をかけて自分の肥やしとすべきだよ、もし変わることなく心に残るものを引き出したいと思うならね。どこにでもいるということは、どこにもいないということだ。海外を旅して人生を過ごす人々の場合、多くの場所で歓待は受けるが友情は結べないということになる。同じことが必ず起きるものだ、才能ある作家の誰にも心を寄せて親しむことをせず、すべてを急いで駆け足に次々と訪れる人々の場合にもね。(岩波書店、高橋宏幸訳)。
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